労働者が会社との契約や規則を破り、指導・教育しも改善されない場合、ペナルティとして違約金を考えることがあるかもしれません。
しかし、原則会社が労働契約の不履行に対して、違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることを禁止されています。
今回は、労働契約における「違約金制度の禁止」に焦点を当て、その背景や具体例、違反時の影響について解説します。
1. 原則違約金は禁止
労働基準法第16条では、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定されています。
この規定は、労働契約の対等性を保ち、労働者が不当な経済的負担を負わないようにするためのものです。特に、労働者が途中退職などを理由に高額な違約金を支払う義務を負うことは、労働者の自由を不当に制限するものと考えられています。
2. 違約金制度の禁止とは
「違約金」とは、債務不履行時に債務者が債権者に支払うべき金銭を、契約の一部としてあらかじめ取り決める制度を指します。労働契約においては、労働者が労働義務を履行しなかった場合に、使用者が労働者やその保証人に違約金を請求できるよう定めた契約がこれに該当します。
民法では契約自由の原則が認められていますが、労働基準法16条は労働者の権利保護を目的として特別法として適用され、これを禁止しています。その背景には、労働者が不当な「足止め」をされ、自由な職業選択や退職の権利を行使できなくなるリスクがあることが挙げられます。
3. 違約金と損害賠償の違い
違約金と損害賠償は一見似ている概念ですが、その性質や法的取り扱いは異なります。
●違約金
・あらかじめ契約に基づいて定められた金額を、債務不履行時に支払うもの。
・実際の損害の有無やその金額に関係なく、固定された金額が請求される。
・労働基準法16条により、労働契約における違約金の設定は禁止されている。
●損害賠償
・債務不履行や不法行為によって発生した損害を補填するために、加害者が被害者に支払うもの。
・実際に発生した損害額に基づいて請求される。
・労働契約においても、労働者が重大な過失や故意によって使用者に損害を与えた場合、損害賠償の請求は可能。ただし、過大な請求や実際の損害を超える金額の請求は認められない。
このように、損害賠償は実損に基づいて請求されるため、違約金とは異なり、法的に適正な範囲であれば認められる場合があります。しかし、労働者の過失が軽微である場合や、使用者側にも過失がある場合には、損害賠償の請求が制限されることもあります。
4. 禁止される違約金契約の具体例
禁止される違約金契約は、労働義務不履行の実損の有無にかかわらず、一定の金銭を支払う内容を定めたものです。例えば、以下のような契約が該当します:
「3年以内に退職した場合、50万円を支払うこと」
「無断欠勤1日につき罰金3万円を課すこと」
「遅刻1回につき罰金1万円を支払うこと」
これらは、正当な労働条件の一環として認められる就業規則の減給処分やノーワークノーペイ(働かざる者食うべからず)とは異なり、労働基準法に違反します。
さらに、違約金契約は労働者本人だけでなく、その親権者や身元保証人に対して課される場合も違法とされます。保証契約や連帯債務契約が労働契約に付随して締結された場合でも、この規定は適用されます。
5. 違約金を定めた場合
労働基準法16条に違反して違約金を定めた場合、以下のような罰則が科されます。
刑事罰:使用者は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる(労基法119条1号)。
契約の無効性:違約金契約自体が無効となり、労働者や保証人に対して請求することはできません。
また、この規定に違反する契約を締結した時点で違法性が成立します。実際に違約金を請求したり徴収したりしていなくても、違約金契約を結んだだけで違法行為となる点に注意が必要です。
6. 違約金制度を禁止する意義
違約金を禁止する背景には、労働者が労働契約から不当に拘束されることを防ぎ、職業選択の自由を確保するという基本的人権の保護があります。特に、労働市場において力関係が非対称な使用者と労働者の間では、労働者の経済的な弱さがしばしば利用されるリスクがあるため、このような規制が重要とされています。
違約金制度を導入することは、一見、使用者にとって労働者の定着率を高める手段のように思えますが、実際には労働環境や待遇の改善こそが長期的な定着率向上に効果的です。違約金制度の禁止を理解し、健全な労働契約を構築することが、結果的に労働者の満足度や企業の成長に繋がるといえます。
違約金を設定することは従業員の行動を制限することにも繋がります。「失敗したら◯千円の罰金」などのルールは、労働者が創意工夫したり、チャレンジングな取り組みもなくなる恐れがあります。やはりペナルティベースで会社を作っていくことは中々オススメできないなと思いました。