はじめに
令和6年4月に完全施行された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」により、すべての事業主がパワハラ防止措置義務の対象となりました。
また、パワハラ対策に合わせて、セクハラの防止や、顧客や取引先からの暴力や悪質なクレーム等の著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)も着目されています。
これに伴い厚生労働省では、ハラスメント対策の実態を把握するための調査を実施しました。
1. ハラスメント調査結果の概要
厚労省の調査によると、過去3年間で以下のようなハラスメントの相談が多く寄せられてました。
※参照:PwCコンサルティング合同会社(2024).令和5年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書
・パワハラ:64.2%
・セクハラ:39.5%
・顧客等からの著しい迷惑行為:10.2%
・介護休業等ハラスメント:3.9%
・就活等セクハラ:0.7%
特に顧客等からの著しい迷惑行為については、他のハラスメントと比較して件数が増加している傾向が見られます。
このような状況において、企業では、以下のような対策を実施しています。
相談窓口の設置と周知:約7割の企業
ハラスメントの内容や方針の明確化と周知・啓発:約6割の企業
特に金融業、保険業、複合サービス業などでは、ハラスメント対策が進んでいる傾向が見られました。
ハラスメントの予防・解決のための取組みの効果と課題
取組の効果としては、「職場のコミュニケーションが活性化する」(39.1%)や「会社への信頼感が高まる」(34.7%)といったポジティブな影響が報告されています。
一方で、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」(59.6%)といった課題も挙げられています。
2. 労働者側の実態調査
こここまでは、企業側への調査結果でしたが、働く従業員へ聞いたデータもあります。よく「企業側の回答と実態は異なる」と耳にしますが、どうだったのか見ていきましょう。
※参照:PwCコンサルティング合同会社(2024).令和5年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書
過去3年間に勤務先で受けたハラスメントとして、パワハラ(19.3%)が最も多く、次いで顧客からの著しい迷惑行為(10.8%)、セクハラ(6.3%)となりました。
頻度については、どのハラスメントも「時々」が最も多く、「何度も繰り返し」という回答はパワハラ(32.0%)が最も高かったそうです。
企業側への調査と比べると、「顧客からの著しい迷惑行為」の数値が目立ちます。
「顧客からの著しい迷惑行為」に着目すると、特に接客頻度が高い業種(生活関連サービス業、娯楽業、卸売業、小売業、宿泊業、飲食サービス業)で経験割合が高い傾向となりました。
これらの業種に該当している企業は、より一層注意する必要がありそうです。
3. ハラスメント対策の実態
こうしてデータを見ると、ハラスメント問題の深刻さが、一層際立てきます。
まずは予防対策を行い、ハラスメントが起きないようにすることは大前提ですが、それでも起きてしまった後にどうするかも重要です。
※参照:PwCコンサルティング合同会社(2024).令和5年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書
調査結果によると、「何もしなかった」が最も多かったそうです(パワハラ:36.9%、セクハラ:51.7%、カスハラ:35.2%)。
これは非常に驚くべき結果ですね。
ハラスメント問題が起きても、そのまま放置しているケースが多く、従業員の不満や離職にも大きく繋がっています。
4. 今後のハラスメント対策
ここまでが、令和5年度の職場のハラスメントに関する実態調査報告の概要となります。
残念なことにハラスメント問題は多くの企業で起こっており、起こった後も「何もしない」という実態が浮き彫りになりました。
ハラスメントは、放置すれば従業員の離職にもつながる重大な問題です。
ハラスメント対策を行うには、企業の自主的な取り組みの促進・支援が重要です。
また、ハラスメントの行為者に対する規制の強化も必要とされています。
法令遵守とともに、従業員が安心して働ける環境を整備するための対策を継続的に実施していきましょう。
最後に、今回の調査結果をもとに皆さまの職場でのハラスメント対策を見直し、より良い労働環境の構築にお役立ていただければ幸いです。
社内のハラスメントには対応しても、お客様からのカスハラはつい見落としがちですので、気を付ける必要がありますね。ハラスメント発覚時も、隠したり見なかったことにせず、誠実に向き合うことが、従業員の定着にもつながります。