はじめに
最近、埼玉県の就職支援活動が話題となりました。
「AI(あい)たまキャリア」と呼ばれる、AIを活用して企業と就職希望者をマッチさせる制度です。
ChatGPTやGeminiなど、ここ数年で一気にAIは身近なものとなり、一般にも広く使われるようになりました。
しかし、AIは万能なものではなく、使い方によってメリット・デメリットがあります。そこで、AIたまキャリアを題材に、AIを人事で活用する際の注意点を紹介します。
AIマッチングはどうなっている?
AIたまキャリアでは、スマートフォン等を使い、AI適職診断を通じて「自分に適した業種・職種」や「県内企業」を探せる仕組みです。対象は、県内企業に就職したい・興味がある大学生、短大生、専門学校生、高校生、既卒者等とされています。
使い方(学生側)は、❝入力→診断→提案→通知❞となっています。
●基本情報の入力(18項目)
●就職で重視する点等のアンケート(10項目)
●行動価値検査(36項目)
これらをAIが分析し、最適な業種・職種と、マッチング度の高い企業を最大5社提案する仕組みになっています。
マッチ後は、提案企業やお気に入り企業から、説明会・インターン等の情報がLINEで届くそうです。(SNSプッシュ通知)
企業側も、会社説明会・採用選考・エントリー開始などの最新情報を登録し、AIが「おすすめ企業」として提案した学生に個別通知できるようになっています。
令和8年1月16日時点では、県内558社もの企業が登録されており、長期的な人材確保への期待が寄せられています。
AIを人事で使うメリット
AIたまキャリアの仕組みは、そのまま企業人事のAI活用(採用・配置・育成)に置き換えて考えられます。メリットは大きく3つです。
(1)❝ミスマッチの芽❞を早い段階で減らせる
本人の希望(アンケート)と特性(検査)を分けて取得し、AIが統合して提案する設計は、「なんとなくの志望」だけで進む採用より、ズレを可視化しやすくします。
企業の採用でも、応募者の価値観・希望条件・強みの整理が早いほど、配属後のギャップ説明やフォローがしやすくなります。
(2)候補者・社員への❝情報提供の自動化❞で機会損失を減らせる
AIまたキャリアは、提案企業やお気に入り企業からの情報をプッシュで届けます。
人事の世界でも、候補者対応(連絡頻度・案内の出し分け)や、社内公募・研修案内などを「必要な人に必要なタイミングで届ける」設計は、取りこぼしを減らします。
(3)採用活動の❝導線❞を短くできる
「条件検索(業種・職種/最寄り駅・沿線)」「県内企業に特化」といった絞り込みは、対象となる母集団形成と意思決定を早めます。
企業側でも、求人票・募集要件・選考基準が整理され、候補者に届く情報が過不足なく、応募~内定までの停滞が減ります。
一方で押さえたいデメリット/注意点
(1)入力データ次第で、提案は簡単に偏る
AIたまキャリアでも、提案の前提は「入力(18項目)+アンケート(10項目)+検査(36項目)」です。
企業人事に置き換えると、評価・適性・職務要件などのデータが不十分だと、AIの推薦が現場感とズレたり、特定属性に不利な結果が出るリスクがあります。
実際に、私達自身でさえ、自分の何に価値観を置いているのか、どんなことを望んでいるのかなどを、明確に言語化して回答するのは難しいことがあります。
AIは便利ですが、回答されたデータの質や信頼性については、別問題で考える必要があります。
(2)説明可能性が弱いと、納得が得られない
「なぜこの候補(配属・研修)が提案されたのか」を説明できないと、候補者・社員・現場管理職の納得が得にくくなります。
AIは❝結論❞を早く出せても、現場は❝理由❞が必要なこともあります。
AIを活用して出してきた結果が、どのような過程で算出されたものなのかを、人事が全く説明できないことは、不信感や不満を抱くことへつながります。
(3)個人情報の取り扱い・通知設計が難しい
AIたまキャリアはLINE通知等を使いますが、企業内で同様のプッシュ通知を行う場合、情報の範囲・頻度・配信対象によっては「監視されている」「情報が多すぎる」と受け取れられることがあります。運用ルール(誰に・何を・どの条件で・いつまで)を先に決めておくことが重要です。
AIは「人事の判断」を置き換えるのではなく、支える道具
AIたまキャリアの事例から見えるように、AIが「採用・配置・育成」の精度を高める可能性を持ちます。
しかし、入力データの質や説明可能性、個人情報の取り扱いなど、運用設計を誤ると逆効果にもなります。
つまり、AIは❝導入すること❞がゴールではなく、❝どう使うか(ルールと運用)❞が成果を左右します。
AIをうまく使る職場ほど、人事担当者や管理職の負担が軽くなり、対応のスピードも上がります。一方で、現場の納得感が置き去りになったり、データの前提が曖昧なまま意思決定に使われると、制度や人事施策への信頼を損ねるリスクもあります。
AIを活かす鍵は、「人がやるべき判断」と「AIに任せてより作業」を切り分けることです。
