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1. はじめに
令和7年6月1日より、労働安全衛生規則が改正され、職場における熱中症対策が強化されました。
近年、猛暑日が常態化し、職場での熱中症発生が深刻な問題となっています。
従業員の安全と健康を守るため、熱中症対策は万全でしょうか。
今回の改正内容と、取り組むべき対策について、最新の情報とともにお伝えいたします。
2. 職場における熱中症の現状と傾向
厚生労働省の測定値によると、2024年の職場における熱中症による死傷者数は1,257人と、統計を取り始めた2005年以降で最多を記録しました。
死者数も31人に上り、過去に観測史上1位の猛暑であった2010年の47人に次ぐ多さとなっています。
熱中症による死亡災害は他の災害と比較して約5~6倍の高い割合で発生しており、特に死亡者の割合が屋外作業で発生していることから、気候変動の影響による更なる増加が懸念されます。
死傷者の約8割が7月と8月に集中しており、午前中から午後3時前後の時間帯に多く発生していますが、作業終了後や帰宅後に体調が悪化し死亡に至るケースも少なくなりません。
業種別では、製造業と建設業で全体の約4割の死傷者数、約5割から6割の死亡者数を占めています。また、50歳代以上で死傷者の約56%、死亡者の約67%を占めており、高齢者のリスクが高いことが示されています。
3. 死亡災害のほとんどが「初期症状の放置・対応の遅れ」
熱中症死亡災害の分析結果から、そのほとんどが「初期症状の放置・対応の遅れ」によるものであることが判明しています。
具体的には、「発見の遅れ」が78件、「異常時の対応不備(医療機関へ搬送しない等)」が41件と報告されています。
初期症状を見過ごさず、迅速かつ適切な対応を行うことが、重篤化を防ぐ鍵となります。
参考:厚生労働省(2025).職場における熱中症対策の強化について
4. 改正による熱中症予防対策の強化
今回の改正では、熱中症による重篤化を防止するため、事業者に対して以下の「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」が義務付けられます。
●報告体制の整備と周知
熱中症の自覚症状がある作業者や、熱中症のおそれがある作業者を発見した者が、その旨を報告するための体制整備と関係作業者への周知が義務化されます。
職場巡視やバディ制、ウェアラブルデバイスの活用、双方向での定期連絡などにとり、積極的に症状を把握する努力が求められます。
●緊急時の対応手順の作成と周知
熱中症のおそれがある労働者を把握した場合に迅速かつ的確な判断ができるよう、緊急連絡網、緊急搬送先、所在地、作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送などの手順を作成し、関係作業者へ周知することが義務化されます。
これらの義務は、気温31度以上の環境下で連続1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業が対象となります。
5. 具体的な熱中症対策
厚生労働省(2025)が公表している「職場における熱中症対策の強化」によると、具体的な対策として下記の4つが挙げられています。
1. 作業環境管理
→直射日光を遮るものを用意すること、冷房を備えた休憩場所を設けることなど。
2. 作業管理
→作業時間短縮、水分摂取の指導、通気性の良い服装の着用、作業中の巡回など。
3. 健康管理
→健康診断の確認、睡眠不足など日常の健康管理指導、健康状態の確認など。
4. 労働衛生教育
→熱中症の症状、予防方法、救急処置、事例の教育
6. 「いつもと違う」を見逃さない早期発見・早期対応の重要性
熱中症が疑われる症状は、ふらつき、生あくび、失神、大量の発汗、痙攣など「他覚症状」に加え、めまい、筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、不快感、吐き気、倦怠感、高体温などの「自覚症状」があります。
意識の有無だけでなく、「返事がおかしい」「ぼーっとしている」など普段と様子が異なる場合も熱中症のおそれがあると判断し、適切に対処することが重要です。
6月1日の改正労働安全衛生規則の施行で、企業は熱中症対策の体制をより一層強化する必要があります。従業員の命と健康を守ることが、企業の持続的な成長に不可欠です。
職場環境と安全衛生管理体制を見直し、熱中症の発生を未然に防ぎ、万一の際には迅速かつ的確に対応できる体制を構築していきましょう。
年々猛暑化が進んでいますね。必要以上にエアコンを我慢して搬送される人があとを絶ちませんので、適切な知識をもとに、適切な環境で作業できるようにしていきましょう。