傷病手当金とは

傷病手当金は、健康保険に加入している方(被保険者)が、業務外の病気やけがによって仕事を休まざるを得なくなったときに、収入を補うために支給されるものです。

具体的には、以下の4つの条件をすべて満たした場合に支給されます:

1. 業務外の病気やけがであること
2. 働くことができないこと(医師の証明が必要)
3. 会社を連続して3日間休み、4日目以降も休んでいること
4. 休んでいる期間に、会社から十分な給与が支払われていないこと

支給される期間は、「支給開始から通算して1年6か月まで」です。これは途中で就労したり、療養が中断した場合でも、最初に傷病手当金が支給された日を起点にカウントされます。

年金(障害・老齢)との関係

傷病手当金と年金は、どちらも「生活保障」のための制度ですが、一部の給付は同時には支給されない(=調整される)仕組みになっています。具体的には、以下のようなケースがあります。

【ケース1】障害年金を受けている場合

傷病手当金を受けている方が、同じ病気やけがで障害厚生年金や障害手当金の支給対象になった場合には、両方を満額では受けられません。

▶具体的には:
・同じ傷病によって障害厚生年金が支給されている場合、原則として傷病手当金は支給されない。
・障害厚生年金の日額(年金額を360で割った額)が、傷病手当金の日額より少ない場合は、差額が支給される。
・「障害手当金」の場合も同様で、傷病手当金の支給総額が障害手当金に達するまでの間は支給が停止される。

▶逆に調整されないとき:
・まったく別の傷病で障害年金を受けているとき
・受給しているのが障害基礎年金(だけ)である場合

つまり、調整の対象となるのは「同じ傷病」による障害厚生年金です。障害等級が2級以上の場合は、障害厚生年金+障害基礎年金の「合算額」で判断されます。

【ケース2】老齢年金を受けている場合(退職後)

退職などで健康保険の資格を失った後でも、条件を満たせば「継続給付」として傷病手当金を受けられることがあります。
その際に、老齢年金(厚生年金など)を受けている場合はどうなるでしょうか?

こちらも基本的な考え方は同じで、老齢年金の日額(年金額を360で割ったもの)が、傷病手当金の日額以上なら支給されない仕組みです。

もし年金の日額のほうが低ければ、その差額分だけ傷病手当金が支給されることになります。

参考資料:傷病手当金と老齢年金等の併給について(2019).全国健康保険協会宮崎支部
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/miyazaki/20130301002/20130228001/2901/r105.pdf

後から発覚した場合は「返金」の可能性も

知らずに両方を受け取ってしまった場合でも、調整対象であれば後から返金を求められる可能性があります。
そのため、会社側としても、従業員が傷病手当金を申請する際に、年金受給状況の確認を行っておくと、後のトラブルを防ぐことができます。

最後に

傷病手当金や年金の制度は、それぞれ単独では理解しやすい一方で、「重なるケース」になると調整ルールが複雑になりがちです。

従業員から「年金をもらっていても傷病手当金は出るの?」「退職した後でももらえるの?」と聞かれたときに、基本的な考え方と注意点を押さえておきましょう。


傷病手当金や年金などは、実務を担当すると、教科書的な知識だけれは追いつかないことがよくあります。どうしても細かい例外ケースなどが出てくるので、その都度知識をアップデートしていく必要がありそうです。