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はじめに
近年使用者が、労働者の自由な意思に反して自社の商品・サービスを購入させる行為が様々な分野で発生しており、問題となっています。
また商品の買取りの強要等は、労働者の経済的損失や精神的苦痛につながるとともに、民法や労働関係法令上様々な問題があります。
具体的には、以下の通りです。
1. 使用者としての立場を利用して、労働者に不要な商品を購入させた
→売買契約が公序良俗に反して無効となり、使用者の労働者に対する損害賠償責任が認められる可能性がある。
民法第90条(公序良俗)、第709条(不法行為による損害賠償)
→労働者に商品を購入させた上で、賃金控除に関する労使協定を締結することなく代金を賃金から控除した場合、労働基準法違反となる。
労働基準法24条(賃金の全額払い)
2. 労働者に対して自社商品の購入を求めたが、労働者がこれを断ったため、懲戒処分や解雇を行った
→懲戒権又は解雇権の濫用として、当該措置が無効になる
労働契約法第15条(懲戒権の濫用)、第16条(解雇権の濫用)
3. 従業員ごとに売上高のノルマを設定しており、ノルマ未達成の場合には人事上不利益取扱いを受けることを明示していたところ、ノルマ達成のため労働者自身の判断で商品を購入した
→使用者が商品購入を強要していない場合でも、労働者が高額の商品購入を繰り返している状況を知りながら放置しているような場合は、売買契約が公序良俗に反して無効となり、使用者の労働者に対する損害賠償責任が認めれる可能性がある。
民法第90条(公序良俗)、第709条(不法行為による損害賠償)
→ノルマ未達成を理由とした懲戒処分について、就業規則に規定がある場合であっても、単純にノルマ未達成だけを理由にこれら措置をとった場合、懲戒権の濫用として無効となる可能性がある。
労働契約法第15条(懲戒権の濫用)
4. 実現的に達成困難なノルマを設定し、ノルマ未達成の場合には人事上の不利益処分を行うことととしている
→達成困難なノルマを設定することは、業務命令権の濫用として無効となる可能性があり、無効の場合は、ノルマを前提とした不利益処分も無効となる。さらに、このようなノルマの達成を指示することは不法行為として損害賠償責任が認められる可能性がある。
労働契約法第3条第5項(権利濫用の禁止の原則)、民放第709条(不法行為による損害賠償)
≪商品の買取り強要等に関連するパワーハラスメントとは≫
職場におけるパワーハラスメントとは、以下の①から③の要素をすべて満たすものをいいます。
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの
これまで挙げた事例の背景に、パワーハラスメントが存在することがあるため、事業主がパワーハラスメントの防止措置を適切に講じることは、商品の買取り強要等をなくす上でも重要であると言えます。
その他、参考となる裁判例等、詳しい内容は下記PDFをご覧ください。
https://roumu.com/pdf/2025042341.pdf
ノルマを設定すること自体は問題ありませんが、業績やノルマの達成を確約させて、未達成の場合に金銭的なペナルティを課すことは違法になることがあります。労働者に対する目標(ノルマ)の設定が適切なものであるか、慎重に検討することが大切です。