今回はメンタルヘルス対策の最新調査結果をもとに、企業が現在どのような取り組みを行っているか、どこに課題があるのか、そして人事労務担当者として今後何をすべきかを整理してお伝えします。

91.7%の企業がメンタルヘルス対策を実施中

東京労働局が実施した「メンタルヘルス対策等自主点検」では、対象となった事業場のうち91.7%が「何らかのメンタルヘルス対策に取り組んでいる」と回答しました。

これは、厚生労働省が掲げる「2027年までに80%以上」という目標値を大きく上回っており、多くの企業でメンタルヘルス対策が当たり前の時代に入ってきたことがうかがえます。

参考文献:東京労働局(2025).メンタルヘルス対策等自主点検実施結果について

相談体制・ストレスチェックは浸透傾向に

企業が取り組んでいる具体的な内容は以下の通りです。
・メンタルヘルス不調者の相談体制の整備:83.8%
・ストレスチェックの実施:74.3%
・医療機関等への取り次ぎ体制の整備:73.9%
・衛生委員会等でのメンタルヘルス対策の審議:72.5%
・推進担当者の選任:71.8%

こうした基礎的な取り組みは多くの企業で実施されています。
特にストレスチェック制度は法定化されていることもあり、大企業でほぼ実施されています。なお、従業員50人未満の小規模事業場でも、ストレスチェックの実施率が51.2%と半数を超えており、こちらも一定の進展が見られます。

「心の健康づくり計画」の策定率はわずか38.9%と低調

一方で課題として浮彫になったのが、「心の健康づくり計画」を策定している企業がわずか38.9%しかないことです。

「心の健康づくり計画」とは、厚生労働省のメンタルヘルス指針で策定が推奨されているもので、単発的・反応的な対策ではなく、継続的かつ体系的にメンタルヘルス対策を進めてくための方針書です。

東京労働局のコメントでも、「対策が場当たり的にならないよう、今後は計画の策定を促していく必要がある」と明記されており、今後の重点課題になるとみられています。

「対策の実施」から「仕組みづくり」へ

現状、多くの企業では「やるべきことはやっている」状態に見えます。しかし、そこに「継続性」があるかどうかとなると、十分ではありません。

たとえば、ストレスチェックの結果を単に通知するだけで終わっていないでしょうか?
相談窓口は設けたけれど、利用率が極端に低くないでしょうか?
休職者の復職支援は、ルール化されているでしょうか?

これらを計画的に整備することが、「形だけの対策」から脱却し、従業員の安心感や定着率の向上、さらには職場の生産性向上にもつながります。

今度、企業に求められる3つのステップ

①現状の棚卸しと課題の明確化
まずは、自社で現在どのような取り組みがなされているかを一覧化してみましょう。自主点検項目をそのまま活用するのもおすすめです。どの項目が「できている」「できていない」を可視化するだけでも、今後の方針が見えてきます。

②「心の健康づくり計画」を簡易でもいいので策定する
最初から完璧なものを目指す必要はありません。現状把握、目標、実施体制、年次レビューの流れがあれば十分です。ポイントは、「誰が」「いつ」「何をするか」が明確になっていることです。

③教育・研修と職場風土づくり
メンタルヘルス対策は人事部門だけでなく、現場の上司や管理職、産業医、外部支援機関などとの連携が重要です。管理職向けの研修や、職場内で相談しやすい雰囲気づくりも並行して進めていきましょう。

今こそ「見える化」と「継続性」がカギ

メンタルヘルス対策は「やっている」だけでは不十分です。重要なのは、それが制度として根づいているか、改善サイクルが回っているかです。

特に、人材の定着・育成・多様性の確保が求められている今の時代、従業員の心の健康を守ることは、企業の「持続可能性」に直結するといっても過言ではありません。

ぜひ今回の内容を参考に、問題の見える化と、継続的な仕組み作りを考えてみてはいかがでしょうか。


メンタルヘルス対策は、一度取り組んで終わりではなく、継続的な見直しと改善が重要です。従業員の心の健康を守ることは、企業の健全な成長と組織作りにもつながります。心の問題は後回しにしがちですが、長期的には大切なことですので、これを機会に見直していきたいですね。